プロテストソング・トピカルソングの傑作集We Shall Overcome!
Only a Pawn in Their Game by Bob Dylan
しがない歩兵 ボブ・ディラン

1963年6月にアメリカの公民権運動の活動家、メドガー・エヴァース/Medgar Evers が銃殺された事件について歌っている。 この事件の詳細については フィル・オクス/Phil OchsToo Many Martyrs/メドガー・エヴァースのバラッド のページをご覧いただきたい。

ボブ・ディラン/Bob Dylan はこの曲で事件と当時のアメリカの社会問題を描写しながら黒人活動家を実際に撃った犯人を、チェスのゲームで前の列を埋めて後ろの王や貴族を守る駒に喩えている。日本の将棋では歩兵にあたる。

狙撃犯は確かに悪いが、彼は背後にいる何らかの勢力によって銃爪を引かされたのだから、責めるべきはその背後だと主張している。その勢力とは誰か?その答えは明かされないが、黒人差別と貧困白人によって裕福な人々が優雅な生活を送るという社会問題を突きながら聞く人に答えを考えさせている。事件の2ヶ月後に行われた ワシントン大行進でも弾き語りで歌った。


これはメドガー・エヴァース/Medgar Evers に限らず、すべての暗殺事件に共通する考え方だと言える。ジョン・F・ケネディ/John F. Kennedy 大統領、マルコムX/Malcolm Xキング牧師/Martin Luther King Jr.、などなど。

翻って日本でも、暗殺事件はあまり公には語られないが、日本の特別会計の闇を暴こうとした石井紘基議員の殺害など、実際に起きている。

国家の指導者と言える総理大臣だって、所属政党の意見を代表する歩兵に過ぎない。その政党もまた、その背後にいる本当の権力者の指示に従っているだけなのかも知れない。

要するに、安倍晋三菅義偉のような総理大臣がいかに犯罪者や無能に見えても、彼らはただ前面に出て国民に対峙している操り人形に過ぎず、もっと大きな勢力が背後にあるということを忘れてはならない。安倍がやめても菅が出てきたし、菅が辞めても、やっぱり同じような人が総理になるのだ。政権与党を変えない限り同じことが繰り返されるだけだ。

いや、日本の場合は、与党、野党を含めた政界全体がある背後勢力に操られている気がしてならない。日本の政治家やメディアのれいわ新選組山本太郎に対する姿勢を見ていると そう感じざるをえないのだ。山本太郎もある意味、一般庶民を代表する「歩兵」と言えるのかも知れない。だから彼を将棋の駒として、歩のままで終えさせるか、銀将、金将、王将と育てて力を持たせられるかどうかは一般庶民の両肩にかかっているのだ。

この曲もすでにご紹介した2曲と同じ、事件の翌年、1964年発表のThe Times They Are A-Changingに収録された。

オリジナル音源


Only a Pawn in Their Game
しがない歩兵

作詞:Bob Dylan

A bullet from the back of a bush took Medgar Evers' blood
A finger fired the trigger to his name
A handle hid out in the dark
A hand set the spark
Two eyes took the aim
Behind a man’s brain
But he can’t be blamed
He's only a pawn in their game

A South politician preaches to the poor white man
"You got more than the blacks, don't complain
You're better than them, you been born with white skin," they explain.
And the Negro's name
Is used it is plain
For the politician's gain
As he rises to fame
And the poor white remains
On the caboose of the train
But it ain't him to blame
He's only a pawn in their game

The deputy sheriffs, the soldiers, the governors get paid
And the marshals and cops get the same
But the poor white man's used in the hands of them all like a tool
He's taught in his school
From the start by the rule
That the laws are with him
To protect his white skin
To keep up his hate
So he never thinks straight
'Bout the shape that he's in
But it ain't him to blame
He's only a pawn in their game

From the poverty shacks, he looks from the cracks to the tracks
And the hoofbeats pound in his brain
And he's taught how to walk in a pack
Shoot in the back
With his fist in a clinch
To hang and to lynch
To hide 'neath the hood
To kill with no pain
Like a dog on a chain
He ain't got no name
But it ain't him to blame
He’s only a pawn in their game.

Today, Medgar Evers was buried from the bullet he caught
They lowered him down as a king
But when the shadowy sun sets on the one
That fired the gun
He'll see by his grave
On the stone that remains
Carved next to his name
His epitaph plain:
Only a pawn in their game
訳:不詳

背後の茂みから放たれた一発の銃弾でメドガー・エヴァースが血を流した
一人の男の一本の指が銃爪を引いた
銃床は闇に隠れ
手が点火し
両目が標的を定める
男の脳の後ろ側に
だけど彼を責めることはできない
彼はただの将棋の歩兵に過ぎないから

南部の政治家が貧しい白人たちに説教垂れる
君たちは黒人よりは裕福なんだから不平を言うなと
白い肌で生まれたから君たちはマシなんだと
黒人の名前が
明らかに使われている
政治家たちの利益のために
名声を上げるに連れ
そして貧しい白人は取り残される
列車の最後部車両に
だけど責めるべきは彼ではない
彼はただの将棋の歩兵に過ぎないから

保安官代理、兵士、政治家たちは給料を得る
そして連邦保安官も警官たちも同じこと
しかし、貧しい白人はまるで道具のように使われる
学校でそう教わる
規則を守ることから
法律とともにいること
白い肌を守るためには
憎しみを維持するためには
だから彼は物事をまっすぐに考えない
自分がどんな場所にいるかについて
だけど責めるべきは彼ではない
彼はただの将棋の歩兵に過ぎないから

貧困の掘っ立て小屋から隙間を通して道を行き交う人々を見る
そして馬の蹄の音が男の脳の中で弾む
そして彼は群れの中でのあるき方を教わる
背後から撃つ
拳を握り締め
リンチして吊るす
フードの下に隠す
痛みなく殺せる
鎖に繋がれた犬のように
彼の名前はない
だけど責めるべきは彼ではない
彼はただの将棋の歩兵に過ぎないから

今日、メドガー・エヴァースが銃弾に撃たれて埋葬された
人々は彼を王様のように横たえた
だが、陰った日差しがあの男
銃を撃ったヤツに当たったら
奴は自分の墓を見るだろう
まだ空いている墓石のところに
彼の名前の隣に刻まれるだろう
その墓碑には刻まれる
「ただの将棋の歩兵の一人」と

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