プロテストソング・トピカルソングの傑作集We Shall Overcome
The Devil Wore a Lab Coat/悪魔は白衣を着ていた
Mary Kutter/メアリー・カッター

アメリカのケンタッキー州で生まれ育ったカントリー歌手、Mary Kutter/メアリー・カッター が自分の経験を元に書き上げたこの曲は、人の命と引き換えに大儲けしている製薬会社業界、俗に言うビッグ・ファーマ/BIG PHARMA に抗議する内容になっている。

この曲はアメリカの地方社会における処方薬依存の実態を鋭く告発している。 これは単なるフィクションではなく、ケンタッキー州で育った作者自身の経験や目撃した現実に根ざしている。

2025年5月に正式に公開された曲だが、テーマが際どいのでリリースには迷ったのか、SNS上にこのショート動画を上げて、リリースすべきかどうか、ファンたちに意見を聞いたようだ。

歌詞の冒頭では、炭鉱労働で体を壊した労働者が医師に痛みを訴える場面が描かれている。医師は「すぐ効く薬がある」と処方薬を与えるが、それはやがて町全体を依存症に陥れる入り口となる。製薬会社や医師はリベートで潤い、患者は副作用や死に直面するという構図が浮かび上がる。タイトルにもなっている「The devil wore a lab coat/悪魔が白衣を着ていた」という比喩は、医療の名のもとに人々を破滅へと導いた存在を鋭く告発する象徴だと言える。

歌詞の中の Rx meds は 処方薬全般のことで、処方箋がないと薬をもらえないシステムのことを指し、このシステムは多くの人々の犠牲の上で成り立っているということを訴えている。

この楽曲が訴えているのは、地方社会で1990年代から始まったオピオイド危機/Opioid Crisis (ケシを原料とする陣痛剤、抗うつ剤、精神安定剤 等)への依存症)がいかにして広がったか、そしてそれが「偶然」ではなく構造的に生み出されたものであるという事実である。炭鉱の衰退で職と誇りを失った地域に、処方薬が「救済」として持ち込まれ、人々は気づかぬうちに依存に巻き込まれていった。結果として、誰かの墓は誰かの収入源となり、地域は深刻な喪失に見舞われたのである。

Mary Kutter/メアリー・カッターはこの歌を通じて、自身の故郷だけでなく、アメリカ各地で同じように苦しんでいる人々の声なき声を代弁している。彼女が目指したのはセンセーショナルな話題づくりではなく、真実を歌に刻むことであった。その真摯な姿勢が、多くのリスナーに共感を呼び起こし、個々の体験や喪失と重なって響いているのである。

「The Devil Wore a Lab Coat」は、薬物危機の裏側に潜む利権構造を暴き出しつつ、同時に地域社会の痛みと悲しみを描いた社会的証言のような楽曲である。白衣をまとった「悪魔」は、現実に存在する制度と人間の欲望の化身であり、この歌はそのことを私たちに強烈に突きつけている。

公式歌詞ビデオ

The Devil Wore a Lab Coat/悪魔は白衣を着ていた

作:Mary Kutter

It was "hey Doc, there's a thing in my knee
Been workin' underground since '83"
Doctor said, "I got you the remedy
It'll kill that pain real quick, trust me"

Didn't take long, half the town was on it
Didn't ask questions, nah, we just popped them
Doctors getting fat from raking in kickbacks
It all happened so fast

One man's grave is another man's paycheck
Rx meds at our expense
Forget the coal mines, they hit a goldmine
Hooked up on six feet of side effects
Like a wolf dressed in sheep's clothes
The devil wore a lab coat

Appalachian map dots were the perfect bullseye
For the pharma reps chasing dollar signs
All their billions couldn't buy a decent alibi
You can say what you want, but tombstones don't lie
Strong towns torn down by little pills
Sold with a smile, don't care when it kills
No coincidence, no conspiracy
It just is what it is, it's our history

Repeat

The devil wore a lab coat

Only God can judge
But they're corrupt and they don't care
We'd tell them to go to hell
But they're already going there
Yeah, they're already going there

Repeat

The devil wore a lab coat
One man's grave is another man's paycheck
訳詩:管理人

「なぁ先生、膝が痛くてさ
ずっと1983年から炭鉱で働いてきたんだ」
医者は言った ―― 「治療法があるよ
すぐに痛みを消してやれる、信じてくれ」

時間はかからなかった、町の半分がそれに手を出した
誰も疑問なんて持たず、ただ薬を飲み込んだ
医者はリベートでどんどん太っていった
すべてはあっという間のことだった

誰かの墓は、別の誰かの給料
処方薬は俺たちの犠牲の上に成り立つ
炭鉱はもう忘れろ、あいつらは金鉱を掘り当てたんだ
6フィート分の副作用に繋がれて
羊の皮をかぶった狼のように
悪魔は白衣を着ていた

アパラチア山脈の地図は完璧な的だった
ドル札を追う製薬会社にとって
何十億あってもまともなアリバイは買えない
何を言おうと勝手だが、墓石は嘘をつかない
小さな薬に引き裂かれた強い町
笑顔で売られ、殺されても気にしない
偶然も陰謀もない
ありのままが我々の歴史だ

くりかえし

悪魔は白衣を着ていた

神様だけが裁ける
しかし、彼らは堕落しており、気にしない
私たちは彼らに地獄に落ちろと言うだろう
しかし、彼らはすでに地獄に向かっている
そう、彼らはすでに地獄に向かっている

くりかえし

悪魔は白衣を着ていた
誰かの墓は、別の誰かの給料